Friday 2 March 2012

パリ 一日目&二日目 〜高級コーラ、盗難ワープ、〜

一日目

2011年の暮れ、イギリス南西部の旅から帰って、間髪入れず、31日からフランスに行って来た。といってもドーバー海峡の対岸なので異国に行くというよりは本州から北海道に行く感覚に近い。バスに乗ってそれが更にフェリーに乗っていくのだけれど、フランス経験の有る友達が行っていた、乗船中はフェリーのデッキに出られるということはできずに、なおかつバスからも降りられず、軟禁状態だった。それでも夢現だったのか、体感的にはドーバー海峡を30分程で横断したのでそれほど苦ではなかった。WARP。それで、呆気なくフランスに着いたのだけれど、これは個人的一大事であった。大陸童貞を喪失したのだ。今まで、日本、イギリス、アイスランドと生まれて、留学して、旅行したのは全て島国で少なからず対大陸を意識していたので、少し切ない気がしないでもない。


友達のホテルに荷物を置いて、レストランに入る。値段が日本の約二倍で若干怯んだが、もう引き返せないので注文。さすがに料理は絶品で、普段食べている不格好で太いポテトとは正反対のスタイリッシュでスキニーなフレンチポテトにも満足。友達が頼んだレモン入りのフレンチビールのさわやかさはレアで注文したにも関わらず完全なウェルダンで出てきた肉の怨恨を奇麗さっぱり晴らすほどだった。店を出て新年のカウントダウンをどこで見ようかとセーヌ川付近を彷徨ったあげく、12時までに時間が有り余っていたので適当に入れそうな場所を探してカフェに入った。パリ中心地のカフェときてはやはり田舎のマックとは事情が違って、ワンオーダーが強制なのでなにか(マックシェーキ的な)安いものを注文しようとしたところ、1000円のコーラを筆頭に不当価格のオンパレードであったので、さすがに驚いた。これがキャフェというやつか。フランスの鋭い洗礼を受けつつ、何故か安いクレープを注文してカウントダウンまで店に居座った。

『Trois!』、『Deux!』、『Un!』みたいなカウントダウンも突拍子もなく新年を迎えた。エッフェル塔が激しく発光するのも、新年だけかと思いきや毎時間光っていてもう既視だし、花火も計算された幾何学的できらびやかなロンドンのものとはほど遠く、まとまった発射は皆無で、個人が少しいい花火を買って打ち上げた程度のものが視界の端っこに点在するくらいで期待外れ。フランス経済崩壊の兆候なのか。エッフェル塔の近くにある公園から観ていたのだけど、人は溢れ返り夏フェスなさがらのモッシュも多発、中国人女性vs中東男の見応えあるタイマンも勃発していた。疲弊しきったので新年で全線無料になっていたメトロに乗ってホテルに帰る。


二日目

友達のホテルから予約していた格安ホテル3Ducks Hotelに移る。そして、その時個人歴史は動いた。カメラが無い。フランスの前に行ったイギリス南西部の旅の写真をパソコンにアップしてなかったのも精神破壊には十分な打撃を与えたが、なにより、2011年に起こったことを2012年にまで持ち越してしまったのが気にくわない。すぐに気づかなかった自分に非があるが。それにしても、パリのスリには脱帽した。来る前から、パリ到着一時間で踊りながら近づいて来た男に財布を取られたJ氏や、地下鉄で華麗に買ったばかりのiPhone4sを持っていかれたS氏の話を聞いていたので、常時の3倍くらいにはATフィールドを張って警戒していたのだ。それにも関わらず、スリはATフィールドを中和し、僕のカバンを巧みに開けて、分厚いタオルを掴んでもなお諦めずに捜索を続け、中心に包まれたカメラをきっと繊細であろうその手中に収めたのである。そして、それがフレンチ伝統の気品なのであろうか、開けたカバンを自らしっかりと閉め直して立ち去った。研ぎすまされた嗅覚、巧妙で緻密な技術、不屈の精神、徹底されたマナー、これらを兼ね備えたパリのスリには一人スタンディングオベーション(拍手喝采)である。


友達と昼ご飯を食べにイタリアンに入る。チャイを頼んだら、市販されているリプトンのパックが出てきたのは大目に見て、ワインが強いチーズフォンデュは絶品だった。昼過ぎにはフラゴナールがやっている香水博物館に行った。紀元前4500年のエジプトから、ギリシャを通って、香水がフランスで隆盛した18世紀までの香水容器が展示されている。もとをたどれば、香水は宗教的儀式において重要な役割を担っていたらしい。そういえば、キリスト教関連のそんなような話を読んだ覚えがある。太陽王、ルイ14世が建てたヴェルサイユ宮殿に常設のトイレが無かったのが香水の発達に一役買ったのは有名なところだが、この頃香水は薬としても使用されていて、コルセットできつく締め付けた為に気を失った貴婦人達に着付け薬と重宝していたという。原料からエッセンスを抽出する方法も3種類(温吸収法、冷水法、蒸溜法)あってそれぞれに必要な容器や道具も展示されている。見て回っているうちに、映画『パフューム〜ある人殺しの物語〜』を思い出した。この博物館には植物からエッセンスを抽出しているという説明しかなかったが、実際には哺乳類からエッセンスを取り出したりもしていたのだろうか。


ぶらぶら歩いていたら、巨大な神殿の前にたどり着いた。サント・マリア・マドレーヌという、いかにも失われた時を求めたくなる名前の教会はブルボン朝末期に建設し始め、フランス革命で中断、そしてナポレオンが政権を握ってから再開し、革命の象徴として完成させるつもりが、完成したのはナポレオンはすでに失脚した後だったいう、なんとも一貫性に欠けた建物である。教会に入ると丁度、パイプオルガンの演奏が始まった。正面奥の壁には最後の審判の彫刻があって曲とその物語が進行するにつれて登場人物が順々にライトアップされていく。それにしても新年から大勢の人が来ている、初詣みたいなものか。


マリー・アントワネットの首が落とされたコンコルド広場から少し歩いたところにある、長過ぎるクリスマスマーケットでチュロスを買う。日本の香具師にもならって欲しいほどに椀飯振舞で、アツアツのチュロスは四人で食べても余るほど。「パンが無ければ菓子を食べればいい」というのも二世紀を経た現在では十分妥当性がある言葉になった。友達のホテルに集まり、スーパーで買ったワイン、スペイン土産の生ハム、イギリスからの年越しそば(インスタント)で夕食を済ます。フランスのスーパーではなにを買っても美味しかった。イギリスのスーパーがフランス化することを切に願う。


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