Thursday 19 January 2012

イギリス南西部の旅 一日目&二日目 St Ives(セントアイヴス)

キリストさんが生きていれば2011歳になる頃、僕はイギリス南西部5泊6日の旅をしていた。クリスマス恐怖症を併発させて今年の聖夜は友達とまったり過ごそうと考えていた12月の第3週、Twitter上で緻密に計画された魅力的な旅プランを携えた鉛筆の人からの誘いが。日本の首相が替わるのと同等のスピードをもって二つ返事、今回の旅が決定したのだった。

一日目

早朝に出発してロンドンから最初の目的地、 St Ives(セントアイヴス)へ。出鼻はくじかれる為にあるもので、行きのバスがたいしたことない雨天と渋滞を理由に予定より3時間遅れて乗り換えのSouthampton(サウサンプトン)に到着し、さらにSt Ivesに向かうバスでは運転手さん☆のコーンウォール訛りによる車内アナウンスで見事に『St Ives』を聞き逃し、通り過ぎ、終点のPenzance(ペンザンス)に行き着いた。予定では三日目に来るはずだったペンザンスに初日にフライングして来てしまった日本人二人は世界の終わりが到来したかの如く絶望し、それから、かろうじてやっていたジャンクフード店でペンザンスバーガーなるものを買って空腹を満たした。西洋には「空腹は最高のソース」ということわざがあるが、僕は言いたい「絶望は最高のソース」であると。絶望という状況は空腹という状態に勝る至上の偶発的アクセントなのだ。機会があれば皆さんも是非、ロッテリアの「絶品バーガー」ならぬどこかの「絶望バーガー」を試してみてはどうでしょう。と、そんなことはさておきバスの運転手によるとセントアイヴスに戻るバスが一本あるとのことで、それに乗りセントアイヴスまで逆戻り。

結局、到着したのは日付も変わって、クリスマスイブ。グーグル先生の地図の精度を過信していた為、宿泊予定のホステルを見つけるのにも苦戦したが、まさかホステルの玄関が施錠されているとは思いもよらなかった。絶望の早期再来である。暗証番号に幾度と挑戦するももちろん無反応、キックに次ぐキック、ピンポンに次ぐピンポンでなんとかホステルに入れてもらうことができた。ようやく就寝。

二日目

昨夜の就寝から間もなく暁起してホステルを出発。目指すはThe Islandと呼ばれるセントアイヴスの先端にある岬、日の出を見ようと思ったのだ。空が鉛色の雲に覆われていたこともあって、そこには今まで見たどの日の出よりも幻想的で抽象的で、サーフグリーンの海とピンクと水色がグラデーションを成す空が朝の静寂と共犯関係を築いて正面に迫って来た。全てが曖昧模糊で終始、夢見心地だった。

書くより写真を見せろと言われそうだが、そこには察して欲しい事実がある。実はこのイギリス南西部の旅の後に行ったパリでかなしいかな、カメラを盗まれたのだ。そして怠惰な僕はむろん旅行から帰ってもパソコンにメモリーをアップせずいたので今頃、写真のデータはフランスの闇市かネットオークションに彷徨っているのだろうと推測する。そんなわけで今回の使っている写真はiPadで撮影したものに限るのでご勘弁を。

アイランドの帰りに海岸に寄って貝殻を拾った、そして落とした。幼年期の頃虫や鉱物を集めていたけど貝はほぼファーストコンタクトで、それもそのはず、僕は海に行ったことがほとんどなく修学旅行を含めても3、4回ほどだ、今思い返すと。時間があるときに一日中、貝殻を集め続けてみたい。

魔女の宅急便の小さな路地を抜けて見つけたパスティ屋でパスティを食べる。パスティとは何ぞや?パスティとはパスティである。そう、パスティと言いたいだけなのだ。そして起こるはパスティのゲシュタルト崩壊。海の見える教会でキャンドルを灯した後は、イギリスならどこにでもあるOxfamという古本、古着、食器等を扱うチャリティーショップで「The Little of PANTS(パンツに関する小さな本)」を買った。その内容ときたら、シェイクスピア、アリストテレスからエリザベス一世や孔子まで、著名人達の発した名句の一部をパンツに換えて列挙するだけのくだらないもので、例えば美声年の悲劇を描いたオスカー・ワイルドの耽美小説『ドリアン・グレイの肖像』の中でヘンリー卿が謂った「敵を選ぶときには、いくら注意しても注意しすぎることはない。」が「パンツを選ぶときには、いくら注意しても注意しすぎることはない」になるという具合だ。しかし、ヘンリー卿のウィットと逆説に溢れた警句を、単語の置き換えだけでここまで清潔感のあるアドバイスに成らしめるとは。凄まじい破壊力である。そしてさらに、このパンツ選びに関するアドバイスもヘンリー卿が言ったとなると、それなりの深い意味合いを含んでいる様に聞こえてくるから不思議だ。

セントアイヴスは芸術家のコロニーと言われていて、町にも大小のギャラリーが多数点在している。その中で最大のものが、ロンドンにあるテートブリテンとテートモダンの分館である、テートセントアイヴスで、必ず行こうと考えていたのだが聖夜前日の為、閉館していた。その近くの教会の壁にはポスターが貼ってあって「Jesus lives forever」がスターウォーズのオープニングっぽく、宇宙を背景に書かれていたのには驚いた。写真がないのが悔やまれる。

昼食に本日二度目のパスティ(羊肉とミント)を食べた。真っ二つにしたラグビーボールの大きさと重量で空腹が12分に満たされた。この小さな町には個性的な店がたくさんあって、天井からナマケモノ、たこ、魔女のぬいぐるみが所狭しとつり下げられている魔女ショップ、色とりどりの貝殻を扱ったシェルショップや、寓話とトランプ類周辺のコレクターズショップはロンドンでは見れないものばかりあって楽しめた。最も惹かれたのは宝石や瑪瑙、化石などを扱うアンティークショップで、子供一人が楽に入る巨大な貝、亀の化石、サメの歯が狭い店の四方を覆っていてる様はヴンダーカンマー(驚異の部屋)を彷彿とさせる。シェルショップでは、貝なのかヒトデなのか分からないがとにかくとてもエロチックなオブジェを買った。

どこの店もクリスマスに備えて早く閉店し始めたので、またまた別の教会に行ってみた。丁度クリスマスイベントをやっていて、地元の人達に混じってキャロルを歌った。どう見ても異邦人で非クリスチャンの僕にも歌詞が載っている冊子をくれたり、次の曲はこれだよと教えてもらったので焦ることなく楽しんだ。歌い終わった後にクリスティングルという、お菓子の付いた爪楊枝を四方に、ロウソクを中心に刺したオレンジを貰った。隣にいたおばあちゃんにこれはなんだと聞いたら、オレンジは地球、赤いテープはキリストの血、四つの棒は四季をそれぞれ表しているんだそうな。

ホステルはこの日はもともと休む予定だったらしいのだが、他に泊まる所がないことを告げると特別に泊めてくれるという。ありがたい。そんなホステルには卓球台からダーツ、スロットマシーンまである広間があって、そこで休んでいたら出来上がったホステルのオーナーとその友達が入って来て、その中の「頭、肩、足」という日本語を連呼する男に、黒いロシアの酒を勧められて飲んだ。癖のある強い酒だったけど、甘くて美味しかった。

日付がかわる前に再度、海の近くにある教会に行った。なにしろ、それ以外に行く所がないのだ。ここは町で一番大きな教会で、二時間くらいの厳格な儀式やスピーチがあった。夜遅くなのにもかかわらず、超満員で席が足らずに立っている人もいた。人生で初めて、コンシューマリズムから逃れたクリスマスを過ごした気がした。

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